便秘のご相談
ひと言に“便秘”といっても、人により様々な症状や状況が便秘と思われております。
便秘として相談されることには、排便の回数が少ない、便が硬い、便の量が少ない、便が出にくい、おなかが張る、便が出たあとのすっきりした感じがない等があります。
通常は生活習慣の改善や緩下剤で改善しますが、50才前後以上で急に起こった便秘は要注意です。すぐに大腸の専門医を受診する必要があります。大腸癌の可能性があるからです。
さて、排便の回数は何回あれば良いのでしょうか? 一般に正常の排便回数は3日に1回から1日に3回までといわれており、排便は3日に1回以上あれば正常とされています。
毎日1回の排便がなくても、おなかが張って苦しいようなことがなければ問題ありません。
むしろ、毎日の排便のために、センナ等の刺激性の緩下剤(便秘治療薬)を毎日服用すると、次第に薬の効果が少なくなり、必要な薬の量が多くなり、腹痛等も起こってきます。
便秘治療を考える場合、まずはじめに、誤った知識や習慣を改めてから始めましょう。これだけで80%以上の人に改善があります。
便秘の相談でよく出会う間違った知識
- 第一に、水分が大切と思って、緑茶・コーヒー・紅茶・ウーロン茶等を飲んでいること。
- 排便が毎日少なくとも1回はなければいけない、と思っていること。
- 便秘だからと、食物を十分に食べないこと。
- 刺激性のセンナ等の緩下剤(便秘の治療薬)を毎日服用すること。
以上の4つが、日常の診療でもっとも多く認められる誤解です。
- 水分は最も大切なものですが、利尿作用(おしっこをたくさん出す作用)のある成分を含む緑茶やコーヒー、紅茶・ウーロン茶は便秘にはよくないのです。せっかく飲んだ水分の多くが尿となってしまい、大腸は乾いて便が肛門に向かって移動しにくくなり、しかも便は硬くなってしまいます。典型的にはヤギやウサギの便のように小さくて硬い、コロコロとした便となってしまいます。
- 排便は、腹痛や腹部膨満感がなければ、3日に1回以上(おおざっぱには週に2回以上)あれば問題ない、とされています。
- 食物のうちでも、食物繊維を十分に摂らないと、腸の動き(蠕動運動)が悪くなってしまい、便秘となります。
- センナ等の刺激性の緩下剤を毎日服用すると、次第に効果が少なくなり、必要な薬の量も多くなり、腹痛等も起こってきます。
便秘の予防と治療
- まず、水を十分に飲みましょう。大切な注意点は、緑茶やコーヒー、紅茶・ウーロン茶等はよくないということです。こうした飲み物は利尿作用(おしっこをたくさん出す)のある成分を含み、便秘にはよくありません。水、お湯、麦茶、ジュース、牛乳、スポーツドリンクを1日1.5~2リットルくらい飲みましょう。これだけでかなりの人が改善します。ぜひ実行してみて下さい。
(注意)この治療方法は、高血圧、心臓病、腎臓病のある人には負担となることがあります。こうした病気のある方は専門医に相談しましょう。 - 食物繊維を十分に摂りましょう。便の量が多い方が、一般には便秘になりにくいのです。食物繊維とは「ヒトの消化酵素で消化分解されない食品成分のすべて」です。
要するに、食べても胃腸から吸収されないで、便となって排泄されるものです。
一日25グラムくらいの食物繊維を摂ることが、正常な排便に必要と考えられています。食物繊維については、詳しくは後述します。 - 朝起きたら、朝食はなるべく食べること。あるいは水分(この場合は緑茶やコーヒー、紅茶でもよい)を飲むこと。胃に食べ物が入ると胃腸反射というものが起こり、腸が活発に動くようになります。
- 便意があったら、早くトイレに行く。せっかくの便意も我慢してしまうと消失してしまい、排便のチャンスを失い、便秘になりやすくなります。
- 軽い運動をすること。
- 刺激性の緩下剤の服用は、なるべく週に1~2回までとする。これで不十分な場合は専門医に相談しましょう。
そのほかの便秘の知識
便秘を以下のように分類することがありますが、慢性便秘も急性便秘も、症候性以外のものでは水の摂取不足のことが多く、まずはじめに水を十分に摂ることが大切。これで改善しない時は専門医に相談を。
慢性的な場合
常習性
- けいれん性:大腸の動き(蠕動運動)がけいれんした動きとなり、便を肛門の方へ順調に送り出す動きとならなくなっている。
- 弛緩性(シカンセイ):大腸の動き(蠕動運動)が弱くなり、便を肛門の方へ送り出す力が弱くなっている。
- 直腸性:直腸の神経が鈍くなり、肛門付近に便があっても、便意(便を出したいという感覚)が感じられない状態になっている。
症候性
- 大腸肛門に病変のあるもの:肛門狭窄、巨大結腸症など。
- 大腸肛門以外の疾患のあるもの:精神疾患、神経疾患、内分泌疾患、薬の副作用など。
急性的な場合
- 一過性単純性:水分不足やダイエットなどによる。
- 症候性:大腸癌などにより、腸の内腔が狭くなり(狭窄)、急に便秘となる。
便秘の薬(緩下剤の種類)
膨張性下剤
(腸内で膨張して腸内容を増量させ、腸の蠕動運動を促進する。食物繊維は膨張性下剤として作用します)
フスマ、オオバコ
塩類下剤
(腸内で浸透圧の作用によって、体内の水分を腸内に引き出し、また腸管からの水分吸収を阻害し腸内容量の量を増加し、腸の蠕動運動を亢進かつ腸内を湿潤にする)
酸化マグネシウム、硫化マグネシウム、マグコロール
湿潤性下剤
(界面活性作用により便の表面が水となじみやすくし、硬くなった便に水分を浸透させて軟便とし、さらに腸の蠕動運動を促進する)
刺激性下痢
(腸粘膜を刺激し、腸の蠕動運動を亢進させる)
A:大腸刺激性:プルセニド、アロゼン、ラキソベロン
大腸の腸内細菌叢により活性化され、大腸粘膜および、Auerbach(アウエルバッハ)神経叢に作用し、大腸の蠕動運動を亢進させます。したがって、腸内細菌叢が破壊されてしまう抗生物質の服用時には効果がありません。肛門そのほかの手術後に抗生物質と同時に誤って投与されることが少なからずあります。
この場合下剤としても効果がありませんが、特記すべき副作用もありません。
しかし、子宮収縮を促進する作用があるといわれ、妊娠中は使用できません。
一般薬として市販されている下剤のほとんどが、この刺激性下剤です。
B:浣腸剤:グリセリン
副交感神経刺激剤
(腸管の動きが活発になるのは副交感神経が優位に働いている時です。したがって、副交感神経刺激薬で排便が促進されますがケイレン性の便秘では使用できません) ワゴスチグミン、パントシン
そのほか プロスタグランティンF2α
胃腸の平滑筋に作用し、胃腸の蠕動運動を促進
レシカルボン座薬
直腸内で炭酸ガスを発生し、その刺激で腸管運動を促進
漢方薬:以上の薬で効果不十分な時は漢方薬を試してみるとよいでしょう。
食物繊維
食物繊維とは「ヒトの消化酵素で消化分解されない食品成分のすべて」であり、
- 水に溶けるもの(水溶性)
- 水に溶けないもの(水不溶性)
の2つに大別されます。
食物繊維の作用には下記表のようなことがあげられます。
便秘予防:水分を吸って食物繊維がふくらみ、便の量が増えるとともに、便を軟らかくし、なめらかな排便に役立ちます。
便量が多い方が腸内を通過する時間が短くなるのです。
大腸癌予防 腸内細菌叢、胆汁酸代謝、発ガン物質の産生低下(?)により、大腸癌予防効果があると期待されています。
肥満予防 食事の時に飽満感を増加し、過剰摂取を抑制します。
糖尿病予防 食物の胃内滞留時間を延長し、インスリン分泌節約による。
動脈硬化・胆石予防 コレステロール吸収量を低下、体内コレステロール濃度を正常化。
(注意)
食物繊維は栄養素の吸収を阻害する作用があります。したがって、低栄養状態の人が多量の食物繊維を摂取することは好ましいことではありません。
食物繊維の多い食品
日頃から食物繊維の多い食品を食べ、便秘を予防しましょう。
毎日25g前後の食物繊維を摂ることが必要です。
通常、1回の食事や間食で摂取する食物中に含まれる食物繊維の量を調べました。食物繊維がたくさん摂れるものをあげています。
食品名 | |||||
総量 | 食物繊維 | ||||
1.干し柿 | 2.ひじき | 3.甘栗 | |||
70g | 7.6g | 10g | 5.5g | 70g | 4.9g |
4.いんげん豆(乾) | 5.そら豆(乾) | 6.ポップコーン | |||
20g | 4.0g | 20g | 3.9g | 40g | 3.8g |
7.納豆 | 8.おから | 9.しらたき | |||
40g | 3.8g | 40g | 3.8g | 100g | 3.6g |
10.切り干し大根 | 11.ぶどうパン | 12.そば(ゆで) | |||
20g | 3.6g | 100g | 3.4g | 200g | 3.3g |
13.あずき(乾) | 14.グリンピース | 15.かぼちゃ | |||
20g | 3.2g | 40g | 3.1g | 100g | 3.0g |
16.オートミール | 17.昆布 | 18.かんぴょう | |||
40g | 3.0g | 10g | 2.9g | 10g | 2.6g |
19.食パン | 20.さつまいも | 21.たけのこ(ゆで) | |||
100g | 2.6g | 100g | 2.3g | 100g | 2.3g |
22.枝豆 | 23.中華麺(ゆで) | 24.コーンフレーク | |||
40g | 2.2g | 200g | 2.2g | 70g | 2.0g |
25.とうもろこし(ゆで) | 26.うどん(ゆで) | 27.ブロッコリー | |||
100g | 2.0g | 200g | 2.0g | 70g | 1.9g |
28.キウイフルーツ | 29.生しいたけ | 30.にんじん | |||
70g | 1.9g | 40g | 1.8g | 70g | 1.8g |
31.ほうれん草 | 32.なす | 33.りんご | |||
70g | 1.8g | 100g | 1.7g | 100g | 1.6g |
34.里いも | 35.いちご | 36.玉ねぎ | |||
70g | 1.5g | 100g | 1.5g | 100g | 1.5g |
37.黒きくらげ | 38.バナナ | 39.桃 | |||
2g | 1.5g | 100g | 1.5g | 100g | 1.5g |
40.ひやむぎ | 41.ごぼう | 42.ぜんまい(ゆで) | |||
70g | 1.5g | 40g | 1.4g | 40g | 1.4g |
43.じゃがいも | 44.大根 | 45.しめじ | |||
100g | 1.4g | 100g | 1.3g | 40g | 1.2g |
46.カリフラワー | 47.えのきだけ | 48.白菜 | |||
70g | 1.2g | 40g | 1.2g | 100g | 1.1g |
49.マカロニ | 50.梨 | 51.トマトジュース | |||
40g | 1.1g | 100g | 1.1g | 200g | 1.0g |